
バロック建築を一言で表すなら、「とにかく盛る。」
柱はねじれ、壁は波打ち、天井には天使が舞い、金箔まで惜しげもなく使われる。
「ちょっとやりすぎでは?」と思うほど豪華だが、実はこれ、ただ派手にしたかったわけではない。
宗教や権力、そして人々の感情を揺さぶるために生まれた、計算された「豪華さ」なのである。
この記事では、バロック建築とは何なのか、その歴史・特徴・代表作を、できるだけわかりやすく紹介していく。
さあ、「盛ってなんぼ」の建築史を見ていこう。
バロック建築の概要

バロック建築を理解するためには、まずその誕生の背景にあった宗教や政治、社会的な課題を知る必要がある。
バロック建築の概要

まずはバロック建築の概要を説明しよう。
バロック建築は、反宗教改革を原動力として誕生し、民衆の心を掴むために絵画、彫刻、建築が混然一体となって典礼を劇的に盛り上げることに力を注いだ豪華さが売りの建築様式である。
長いが、言ってることはめちゃ単純である。
「キリスト教会の典礼(=儀式)を最大限豪華にして信者の心を繋ぎ止めたい」
ってことである(偏見あり)。
豪華にしなければならなかった背景

冒頭で「豪華さが売り」と書いたが、なぜ教会を豪華にしなければならなかったのか。
中世ヨーロッパのこの頃、贖宥状(しょくゆうじょう=免罪符)という天国に行けるチケットを販売して悪逆非道な金儲けを始めたローマ・カトリック教会を痛烈に批判したルターによって宗教改革が始められた。

ルター「天国へ行けるチケットなんてありえない!!!みんな目を覚ませーーー」
宗教改革は16世紀のヨーロッパで強力に展開され「このままのキリスト教会でいいのか」と、民衆に教会の腐敗に批判の眼を向けさせた。
まあこの頃のキリスト教会は本当に腐っていたのだが。
ルターは「人間が正しい道を歩んでいるかどうかを判断するにあたって重要なのは典礼ではなく聖書だ」と主張した。
典礼(=ミサ)とは教会で行われる儀式のことで、ミサは信仰生活の中心であり、そこへの出席は信者の義務だった。
例えば毎日曜日に教会で賛美歌を歌ったり、神父の説教を聞いたりとか、である。
なのでこの時代、「え、あなたミサに出席してないの?あーあー、敬虔なキリスト教徒とは言えないわね〜この非国民めが!」という雰囲気がヨーロッパを包み込んでいた。
早い話、キリスト教会の束縛が激しくて窮屈だったのである!
ルターは、教会で行われる儀式に律義に毎回出席することよりも聖書の教え通りに生きる事こそが大事だと考えました。
まあ筆者もそう思いますƪ(˘⌣˘)ʃ
この宗教改革によって、カトリック教会から離別したプロテスタントという宗派が生まれました。
キリスト教の宗派の違いはこちらの記事でご確認ください↓

実際に悪どい金儲けを行なっていたカトリック教会は考えました。
このままでは大勢のカトリックがプロテスタントに改宗してしまう…( ゚Д゚)
ピラミッド構造の最上位に位置するカトリック教会の幹部たち、かなり焦りました(;´・ω・)

ここにおいてカトリック教会は、
民衆の心を掴み、感覚に訴え情感に直接働きかけるような演出によりミサを劇的に盛り上げる演出が必要だったのです。
信者を逃さないために・・・
バロック建築の特徴

➀バロック建築の特徴

そもそも「バロック(baroque)」という言葉は「ゆがんだ真珠」を意味するポルトガル語に由来し、とんでもなく豪華な装飾を皮肉られてこう名付けられました。
「野蛮」という皮肉を込めて名付けられたフランス生まれの『ゴシック』建築のブーメラン現象ですね(笑)
後期ルネサンスのマニエリスムにおいてはオーダーの扱いに知的工夫が凝らされ、新奇性や意外性が追及されましたが↓

(↑後期ルネサンスのロレンツォ図書館)
オーダーは平面内にとどまっており、基本的には盛期ルネサンスと同様に静的な性格が保たれました。
「は、静的?マニエリスムが!!??(・Д・)」
と思う人も多いかもしれませんが、その理由は後でわかります(笑)
過激と呼ばれた後期ルネサンス建築ですらバロック建築と比べたら静的でおとなしいなのです。
しかしバロック建築では、オーダーのモチーフを変形することはあってもマニエリスムのように分解・融解することはなく、むしろオーダーに敬意を払いながらその大胆な適用によって力強い動的な表現を創出しました。
特に、

凹凸の強調、うねる曲面、楕円、過剰な装飾、光と影のコントラスト、中心軸の強調、空間的抑揚
これらがバロック建築の特徴になります。
ここにはルネサンス建築が理想とした規則正しい繰り返しのリズムはなく、躍動の美学が存在します。
実際に実例を見ながら詳しく確認していきましょう。
サンピエトロ正面

➀中心軸の強調
バロック建築の傑作であるサン・ピエトロ大聖堂を紹介する前に、バロック建築の重要な要素である「中心軸の強調」を説明します。
(参考書のバロック建築にある一文より↓)
祭壇に向かう中心軸の強調を必然的に招くことになり、
それが建物外部にも溢れ出て正面の構成に影響を与えています。
筆者「はあぁぁぁ!!?(゜-゜)?」
はい、難しいと思います。
筆者は何度も何度も前後の文や別の建築様式の説明を読んでようやく理解できました。
前述した「中心軸の強調」とはどういうことか説明します↓

↑例えば、こういう教会があるとします。
恐らく手前に見えているのが教会の入り口で、教会の奥には祭壇とかがあると思います。
という事は、信者は入り口から入って真っ直ぐずーっと奥の祭壇まで歩いて礼拝することになりますよね↓

ではこの教会で最も豪華にしなければならないのはどこでしょうか?
チチチチチチチチ…はい時間です!
正解は、入り口から奥の祭壇までの直線的な部分です↓

この部分を最も豪華にしなければいけないですよね?
なぜなら信者が最も目にする部分だからです( ˘ω˘ )
これが「中心軸の強調」という意味なんです。
礼拝者はみんな入り口から奥の祭壇まで直線的に歩くので、この中心軸(直線)を強調するのが最も大事なんです。
※言い換えると「信者の眼に触れる部分が最も重要」という意味です(笑)
この「中心軸の強調」を理解するのが、バロック建築を理解する最大のポイントです。
②サン・ピエトロ正面

では実際にカトリック教会の頂点に位置するローマのサン・ピエトロ大聖堂のファサード(建物正面)をモデルに見ていきましょう。
サン・ピエトロ大聖堂自体は何度も再建されており、その一部としてファサード(建物正面)が1624年にバロック様式として完成しました↓

↑こちらがサン・ピエトロ大聖堂のファサード(建物正面)です。
では実際にバロック建築のファサードの特徴を見ていきましょう。

今回紹介するのは主に上記の4点です。
コリント式大オーダー
まず、ファサードで最も目を引くのがコリント式大オーダーです↓

上の写真のように、2階分の高さをもつオーダーを大オーダーと呼びます。
壮大な印象を与える大オーダー自体は後期ルネサンスの発明ですが、配列は全くもって異なります。
大オーダーについては既にこちらで紹介しています↓


③神殿正面と神殿側面を合体
サン・ピエトロ大聖堂のファサード(建物正面)は大きく2つの構成に分けられます。
それが「神殿正面」と「神殿側面」です。
わかりにくい表現ですが、一緒に確認しましょう。
神殿正面

↑これは紛れもなく神殿正面ですね。
上に三角形のペディメントも載っていますし、「The 神殿」って感じです。
幅は違いますが、ローマのパンテオンと比べても大体同じでしょ?

しかしサン・ピエトロ大聖堂の場合、その左右を見てみると少し違います。
神殿側面

大聖堂のファサードには、神殿正面に神殿の側面部分まで貼り付けられています!!
下の図は、ギリシャ建築の最高峰パルテノン神殿を例に用いて「神殿正面」と「神殿正面」を説明しています↓

普通、神殿の正面は上の三角形のペディメントの幅で決まります。
ほら↓

ほら↓

ローマ建築の粋パンテオンもそうでしょ?↓

もうしつこ過ぎるくらい説明しています( ˘•ω•˘ )
しかしサン・ピエトロ大聖堂の場合、ペディメントの幅以上にもファサードが伸びています↓

つまりこのファサードは古代の神殿側面に、ペディメントのある神殿正面を重ね合わせた構図であることがわかります。
これもバロック特有の表現なんです。
重要なのでもう一度言いますよ?
過去の神殿建築はペディメント(三角形の底辺)の幅で建物がおさまっているのに↓



バロック建築ではペディメントの幅以上にファサードが延長されています↓

ほら、ペディメントの幅以上に神殿が左右に広いでしょ( ˘ω˘ )
④段差を用いた中心軸の強調
さて、第一章で述べた「中心軸の強調」の応用が出てきますよ~
バロック建築では、中央を強調するために柱列を含む層を前後に重層させる方法を用いています。
前述しましたが、信者が入り口から奥の祭壇まで歩く直線(中心軸)が最も大事なんです。
サンピエトロ大聖堂では、正面中央のペディメントの幅を強調するために段差をつけて層自体を前にせり出させています↓

しかも正面の端から
ピラスター
→半円柱
→3/4円柱
→完全円柱
というように、どんどん中央に近づくにつれて円柱もせり出させています↓

上から見た図がこちらです↓

このように、バロック建築はとにかく中心軸の強調に重きを置いたファサードをもちます。
サンピエトロ内部

➀内部立面の小割りとは
それではバロック建築の内部を見ていきましょう。
(ローマ、ルネサンス、バロックのような)古典系の教会堂では、内部立面を小割りにするのを好みません。
例えばゴシック建築を例にとってみましょう↓



ゴシック建築は聖堂内部を細かく区切っていますよね。
細かく刻んでいる、と言ってもいいかもしれません。
ローマ建築編で出てきた「トリフォリウム」とか「クリヤストリー」「盲窓」といったやつらです。
「内部立面を小割りにする」というのはそういう事です。
ローマ建築の傑作パンテオンの内部を一応見てみましょう↓


ゴシック建築に比べると内部の細分化が少ないですよね、まあなんとなくで良いので理解してください。
②バロック建築の内部
バロック建築に拘わらず、古典系建築の教会堂は単層のオーダーで壁面を大きく分割しその上部を構成するエンタブラチュアによって壁面とドームやヴォールトなどの曲面天井を境界付けることが多いのです。
つまり、柱の上のエンタブラチュアが直接ドームやヴォールト天井を支えている構造です↓

これも↓

これも↓

装飾が凄くてあまり目立ちませんが、構造自体はとても単純です。
↑
エンタブラチュア
↑
柱
です。
これらを踏まえて、サン・ピエトロ大聖堂の内部を見てみましょう↓

先ほどから口酸っぱく言及している「柱&エンタブラチュア&ヴォールト天井」を見つけることができましたか?

一言で「柱」と言っても「コリント式円柱」だったり「コリント式ピラスター」だったり様々です。
もう一枚、サン・ピエトロ大聖堂の内部の写真です↓

アーケードの太いピアに付けられた双柱のピラスターがエンタブラチュアを支え、その上に格間(ごうま)付きのトンネル・ヴォールトを架けています。
格間(ごうま )

天井やヴォールトを覆う正方形/長方形/八角形などの形状のくぼんだパネル
この構成はアルベルティがマントヴァのサンタンドレア聖堂(1470年)で初めて考案したものですが、その力強いテンポゆえにバロックでは好んで用いられました。
後期ルネサンスと初期バロック

➀後期ルネサンスと初期バロック

ここで一つ面白い例を紹介します。
ここまでのバロック建築の内容を理解していたらわかる方もおられるかもしれません。
イル・ジェズ聖堂とサンタ・スザンナ聖堂は外見上は非常に似ていますが、特徴さえわかれば後期ルネサンス建築と初期バロック建築で区別することができるんです。
※筆者は初め全くわかりませんでした(笑)
イル・ジェズ聖堂↓

サンタ・スザンナ聖堂↓

さあどうでしょうか?

初期バロックと後期ルネサンス、どっちがどっちかわかりましたか?(゜.゜)

注目すべきは、バロック建築編でずっと言っている中央の強調です。
では解説していきます。
②イル・ジェズ聖堂
まず両聖堂とも下層は五つの柱間からなります。
※「柱間」とは文字通り、ピラスターや円柱の間の壁面のことです

柱間は、ペデスタル(柱の下の土台)で区切っています。
イル・ジェズ聖堂は入り口両側を除く全てをピラスターとし、それらを二本一組(※ペデスタルに注目↓)の双柱にして並べています。

端部から二番目の双柱でピラスターと壁の突出が大きくなっていますが、ピラスターが横に広いため目立ちません↓

また、入口の両側だけは3/4円柱ですが、隣のピラスターと対にして双柱の並びに同調させているので中央部の強調は和らげられています。
概して中央部の強調が少ない、なのでこちらは(後者と比較したら)後期ルネサンス建築の建物だと考えることができます。
③サンタ・スザンナ聖堂
サンタ・スザンナ聖堂の場合、両端のみをピラスター、他を1/2円柱、3/4円柱、完全円柱として、中央に近いものほど突出を大きくし、輪郭を明瞭にしています。
※このような柱の扱いはエンタブラチュアにも段状の突出となって現れています。

しかも両端の柱間を絞って、ファサード(建物正面)が横に広がる印象を抑えています。
また、柱間の幅に注目してください↓

外側(建物端っこ)から内側(玄関)にいくにつれて、幅が広がっていますよね?
このように全体が中央への収斂(しゅうれん)を意図した構成が、サンタ・スザンナ聖堂をバロックたらしめているのです。
サン・カルロ聖堂
サン・カルロ・アレ・カトロ・フォンターネ聖堂(1646年)は小規模ですが独創的な建物です。
まずはファサードです↓


四本の円柱からなるオーダーを二段に重ねた構成ですが、全体を支配するのはうねりの感覚です。
円柱自身は直線状にありますが、エンタブラチュアと壁は波形に湾曲しています。
うねるエンタブラチュア
これもバロックならではです。
サン・カルロの回廊も同様です↓

次にサン・カルロの内部↓

サン・カルロ大聖堂上部のドームは楕円形で、ランタンからの光に照らされた幾何学模様の格間(ごうま)が神秘的です。
真円が静的で完結的であるのに対し、楕円は収縮と膨張が拮抗する動的な力を暗示させるからです。

そんな理由で、バロック建築時代には楕円が好んで用いられました(・ω・)ノ
各地への伝播

➀バロック建築の2つの傾向
以上みてきたように、バロック建築にもサンタ・スザンナ聖堂のように古典的な性格を比較的温存する傾向と、サン・カルロ聖堂のように激しい抑揚を伴う劇的な傾向とが存在します。
古典的な性格を比較的温存する傾向↓

激しい抑揚を伴う劇的な傾向↓

フランスとイギリスは前者(古典的性格)を独自の形で発展させ、宮廷建築と教会堂を中心に、一層古典的性格の強い作品を生み出しました(※)
【※重要】
イタリアのバロックに比べると、ですよ。
パリのオテル・デザンヴァリッド↓

ロンドンのセント・ポール大聖堂↓

フランスとイギリスは、(イタリアと比べると)比較的古典的なバロック建築を究めたのです。
②ロココ様式
フランスではやがて、宮廷の愉楽的(ゆらくてき)な趣味を反映し、特に室内空間の表面装飾的な様式として、より優雅で繊細なロココ様式が生まれました↓





※ロココ様式はバロック様式の装飾を極限まで追究しつつ、重厚さよりも軽快さを重視しています。


ロココは、フランス語で「岩」を意味するロカイユに由来しており、石や貝殻/サンゴ/植物の葉/花/波といった自然の曲線を取り入れた装飾を特徴としています。

バロック様式と比べると、そんなに差があるわけではありませんが、

ロココ様式の方がいくぶん軽快優美ですよね。
目がチカチカしませんから(笑)
一方で、熱烈なカトリック信仰が生き続けていた南ドイツとスペインでは、後者(派手な方)の傾向をさらに発展させ、神秘的で幻惑的な宗教空間を創造しました。
ドイツのアザム教会↓

いかにもバロック!って感じですね
